いつか会える日

03
不思議な来訪者

不思議な来訪者

 境内の蓮の花が咲き始め、早朝から花を囲んで歓談する人の声が賑やかです。
 この時期にも多くのお散歩カメラマンが訪れてきますが、昨年出会った、ある男性のことが忘れられません。年の頃は四十代後半、柔和な雰囲気の、でもしっかりとした体軀の持ち主でした。最初に興味をひかれたのは、大きな三脚にデジタルの高級一眼レフカメラをセットし、そこに手作りのアダプターを介して、有名なフィルムカメラ、ハッセルブラッドのレンズを装着して撮るという、その独特の撮影スタイルでしたが、話をして印象に残ったのは、蓮の花の上には必ず仏さまがいらっしゃるのだと、子供の頃に祖母から聞かされたという話をする時の、真剣な表情でした。
 数日後、私の留守中にその男性から六枚の写真が届けられていました。どれも、私と話をした時に撮っていた、白い蓮の花の写真です。しかし、その写真を見た瞬間、あれほど大がかりな仕度でこの程度なのかと、正直なところがっかりしてしまったのです。どの写真も沈んだような色あいで、パッと目に入ってくるものがありません。それにどれも縦位置で、申し合わせたように花の上の空間が間のびしていて、構図も良くないのです。それでもせっかく届けてくださった写真ですから、いちばん行き来の多い居間の柱に、しばらく貼っておくことにしました。
 ところが、その写真を毎日、見るともなく見ているうちに、その、あまり冴えない色あいが、次第に心地よく、自然な感じに思われてくるのです。そして、あらためて一枚一枚を見てみますと、花びらの先端まできりりと描写されていながら周囲の景色と一つになって、全体から気品さえただよってきます。そして、うーん、そうかと思った時、はっと気がついたのが、その構図のことでした。彼は、蓮の花の上にいる仏さまも、当然のこと、構図の中に入れて撮っていたに違いありません。しかし、仏さまが見えない私には、それがただの、間のびした空間にしか見えなかったのです。

(ようげん寺報 2013年8月15日発行 第8巻第3号掲載)
蓮の花
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