いつか会える日

05
ラマンチャ

ラマンチャの男

  たった一人の男が
  蔑まれながら、傷つきながら
  それでも懸命に
  最後のひとしずくまで
  残った勇気をふり絞り
  あの星、そう、あの遥かな星へ
  見果てぬ夢を追い求めていけば
  この汚れた世界が
  少しだけ、きれいになる
  キット、少しだけきれいになる
 これは久保田尭隆さんが訳詩した、ミュージカル「ラマンチャの男」の主題歌の一部です。
 誰もが〈そんな夢、かなうわけないよ〉という夢に向かい、〈最初から負けるに決まってるじゃないか〉という敵に向かって、〈決して持ちこたえられるはずはないさ〉というほどの悲しみを抱え、〈どんな無謀な奴も、そこだけには行こうとしない〉目的に向かって、打たれても破れても進みつづけていく。法華経の「」に登場し、この苦難に満ちた娑婆世界で法華経を弘めていくことを誓った菩薩たちも、その菩薩の生き方を自らの生き方とした日蓮聖人も、やはりドン・キホーテ(ラマンチャの男)で、この歌はそのまま日蓮聖人のテーマ曲だとも思うと、久保田さんは言います。
 久保田さんの本でこの箇所を読んだ時は、まさに目からウロコの落ちる思いで、これまで近寄りがたい存在であった日蓮聖人が、にわかに身近に、愛おしくさえ思えてきたのでした。
 日蓮聖人を理解しなければならない、そのように生きなければという思いが、日蓮聖人をどんどん遠い存在にしていたのです。そんなこと、できるはずはなかったのです。しかし、自分にそういう生き方はできなくても、そういう人に憧れることならできます。江戸の庶民は、きっと、そうしたお祖師さまの生きっぷりに惚れたのでしょう。今に伝わる、あのお会式の賑わいは、みんなが憧れたラマンチャの男、日蓮聖人のご命日にこそふさわしいのだと、納得するのです。

(ようげん寺報 2013年12月15日発行 第8巻第5号掲載)
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