いつか会える日

08
とっておきの景色

とっておきの景色

 思いがけないほど多くの方々からご協力をいただき、おかげさまで紫陽花の植栽もほとんど完了しました。二年後ぐらいには、山の斜面の石段に沿って美しい花を咲かせてくれることと思いますが、よく見るとすでに小さな花芽をつけているものも数株あり、この六月の末頃にはちらほらと花を見ることができるかも知れません。
 桜、菜の花、菊、千日紅などについで、また一つたのしみが増えましたが、実はこの寺にはもう一つ、あまり知られていない美しい景色があります。それはこの境内に立って眺める四季折々の夜空で、昨夜などはもう夏の気配の、少し青味を残した空に月が輝き、その月明りに白く浮かぶ雲の姿が、それはきれいでした。
 境内をぐるりと縁取るように茂った木立が、街灯などの周囲の明りをうまく遮ってくれるからでしょう、プラネタリウムで写し出されたような丸い空が、ぽっかりと広がっています。
 地面にくっきり映る自分の影を見て、月の光がこんなに明るかったのかと驚かされたり、空気が澄んでくると、東京でもこんなにたくさんの星が見えるのかと思うほどの星空が広がりますが、そんな時は、昔、横尾忠則さんがインド旅行中に見たという満天の星空の話を思い出したりします。それはインドを旅行中、暑苦しいので宿を抜け出して湖畔に寝そべって夜空を見上げると、満天の星が今にも降ってくるようで、そのおびただしい数の星を見ているうちに、お経に出てくる「諸仏諸菩薩」という言葉の意味が、ああ、これなのだと実感されたというものです。
 そんなわけで、自分の影を追いかけるように歩きまわったり、あごを突き出すようにして星を眺めたりしているうちに、つい風邪をひいてしまったりするのですが、もし、夜この寺の近くを通りかかり、境内で怪しげな行動をとっている老人がいるのを見ましたら、それはきっと私ですので声を掛けてみてください。一緒に夜空をたのしみたいと思います。

(ようげん寺報 2014年6月15日発行 第9巻 第3号掲載)
星
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