いつか会える日

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一日だけの音楽会

 十年ひと昔といいますから、もう昔々のことになりますが、檀家のKさんから大きなスピーカーと真空管アンプ、CDデッキなど、軽トラックで運ぶほaどの音響機器一式をいただいたことがありました。
 Kさんは若くして視力を失い、それからは指圧師として生計を立てていました。腰痛に悩んでいた私もずいぶんお世話になりましたが、治療台の頭の方にそのスピーカーが置いてあり、治療中いろいろな音楽を聴かせてくれるのがたのしみでした。しかし、せっかくの音響システムも隣家が密接しているため、思うように使うことができず、ありがたくも私にお下がりということになったようです。
 二十年ほど前に盆踊りを始めた時、養源寺の盆踊りは音が良いと評判になりましたが、それもそのはずカーテンの陰にこのスピーカーを置き、東京音頭や炭坑節など、大音量で流していたのでした。
 その後スピーカーのコーンが破れ、アンプの真空管が切れてしまってからは物置でほこりを被ったままになっていたのですが、昨年の暮れに急に直したくなっていろいろ調べたところ、真空管のアンプを専門に取扱う店が見つかり、スピーカーの修理もそこでしてもらえることになりました。
 一月の末にスピーカーの修理が終わり、アンプが直るのをたのしみにしていた二月、突然Kさんが亡くなられてしまいました。ご家族の希望で納骨までの間、寺でお骨を預かることになりましたが、ようやくアンプが直ってきたある日、本堂正面にそのスピーカーを設置し、アンプにつなぎ、Kさんのお骨を特等席と思われる位置に置いて、ご家族の方にお願いして届けていただいたCDで一日中、ベートーヴェン、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲やペペ・ロメロのフラメンコギター、東儀秀樹の笙、篳篥、鼓童の和太鼓、前橋汀子のヴァイオリンなどなど、Kさんが叶えられなかった豊かな音量でたっぷりと聴いてもらうことができたのでした。CDケースには点字のシールが貼ってありました。 

(ようげん寺報 2016年4月15日発行 第11巻 第2号掲載)
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