…がくれた、幸せ
美術部
文・秋津良晴 絵・中山成子
 

 まだ四月でした。岡崎は床に座り込んで油絵を描いていました。ボクはイーゼルに背を向けて土手道を下校する同級生に声をかけていました。と、背後に殺気立った気配を感じました。振り向いたら四、五人の男子先輩がボクと岡崎を囲んでいました。そして、「こらーっ」と言うなり岡崎とキャンバスを蹴飛ばしたのです。さらに、倒れた岡崎を足蹴にしました。部を辞めさせられた上級生が仕返しにやってきたのです。ボクが割って入ろうとすると、「おまえは、どいちょけ」と言ってボクを囲みの外に追い出しました。なぜか岡崎だけが的になっていました。先輩が今にも岡崎に恨みの一撃を下そうとしていました。ボクが言葉を失っていると、ボクの後ろから「あんたたちーっ!」

と大きな声がありました。
 そのとき、ボクは後ろで何が始まったのか知りませんでした。岡崎の目配せで振り向いて見ると、そこには奇妙な光景があったのです。部室の出入りを阻むように三人の女の先輩が仁王立ちになっており、暴行を振るった男子の先輩たちは身動きがとれずにいたのです。三人の女子先輩はそれぞれ「美人」でした。中でも矢島さんはスタイルも良く、目だった存在です。浜崎さんは背こそ低いけれど、個性派美人で可愛い系、泊さんはスポーティな感じの健康美人といったところです。男子の先輩たちは、そんな美人の、ありえない大声に戸惑っている様子でした。
「あんたたちは卑怯やね」
と矢島さんが言うと、泊さんが、
「ひとりでは、なーもしきらんくせに」
と言い、浜崎さんは、
「あんたたちの親分は、こんこと知っとると?」
と、何やら意味ありげな事を言いました。すると、男子先輩のひとりが「いこか」と言い、三人の女子を避けるように部室を出て行きました。ボクたちは、この時から三人の女性に守られて美術部を、伝説のクラブにして行ったのです。15歳の春の事でした。

(ようげん寺報 2015年8月15日発行 第10巻 第4号掲載)
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