いつか会える日

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寅さん

寅さん、再び

 一と月ほど前だったでしょうか、お寺の世話人をしてくれている伊東宏さんが、「これ観ますか?」と、映画『男はつらいよ』シリーズ全巻のDVDが入った紙袋を、まるで寅さんのように、ポンと置いていってくれました。
 この映画の封切を心待にして映画館へ
足を運んだのは、もうずいぶん昔のことになります。シリーズの大半は観たのではないかと思いますが、その中でもこれが一番の傑作とひそかに思う作品や、断片的に記憶に焼きついているイメージや台詞もあります。それをもう一度たしかめたり、味わうことができるのですから、これはたのしみです。
 ところが、あらためて観てみると、以前にはあまり好印象が残らなかった作品の良さにはっとさせられたり、今では大御所の俳優さんの、誰かと怪しむほどの初々しい姿に、思わず過ぎてしまった年月を噛みしめさせられたり、森繁久彌や小沢昭一といったベテランの、何気なく見える芝居に目が釘づけになったり、あたりまえのように聞き流していた山本直純さんの音楽の素晴らしさがしみじみとわかったり…で、次を観るのがわくわくしてくると同時に、この映画にこめられた山田洋次監督の、「人間ってすばらしい」「人間はみんな生きるにたる」の思いが、どの作品からも、これまで以上に深く伝わってくるのでした。
 先日ひょっこり顔を見せた宏さんに、そんな話をしたところ、そうなんですよ、と大きく頷きながら、「実は僕もまた観てるんですけどね、もう、いつも泣きながら観るんです。あの映画はねぇ、笑って観ているうちはまだまだですよ」と、いかにも彼らしいことを言うのでした。
 思えば私たちが日頃親しんでいる『法華経』も仏さまの、「人間ってすばらしい」の思いが凝縮した経典です。ただその思いがケタはずれに大きいため、それがなかなか理解されにくいということでしょう。この映画のように、笑ったり泣いたりする中で、それを人々に伝えることができたらと、いつも思うのですが。

(ようげん寺報 2013年4月15日発行 第8巻第1号掲載)
男はつらいよ
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