いつか会える日

04
2億年

二億年の夢

 久保田尭隆さんの『目からウロコの法華経講話』全五巻が、十年余をかけてようやく完成しました。ずいぶん時間がかかってしまい、関係者にも迷惑をかけてしまいましたが、この本を作るためには、やはりそれだけの時間が必要だったのだと、あらためて思っています。
 この本には、経文の真意をなんとか伝えようとする久保田さんの工夫で、実にさまざまな、時には思いがけないエピソードが豊富に織り込まれていて、それもこの講話集の大きな魅力になっているのですが、その中に、鳥が鳥として自由に空を飛べるようになるまで、二億年もかかったという話があります。しかもその進化の過程は専門家にとっても謎で、強いていえば、不自由きわまりない長い時間、空を飛びたいという願いをひたすら持ちつづけたからとしか言いようがないというのです。
 どういうわけか、最初に読んだ時からこの挿話に心がひかれ、「二億年の夢」などと勝手に名付けて、機会あるごとに紹介してきたのですが、この本ができてからは、それは単に譬え話ではなく、この五巻ができるまでの長い時間そのものを言っているように思われてくるのでした。そして最近、この本は十年どころではない、実はもっと長い時間の中から生まれてきたのだということにも気がついたのです。
 今から四十数年前のことです。当時、本門寺の文化部長であった酒井さん(現本門寺貫首)から、「おい、雑誌を作るから手伝え」と、ポンと肩を叩かれ、それから三十年、まったく経験のなかった編集、出版の仕事に携わることになるのですが、もしそうした縁がなければ、本を出版したいなどという願いが、自分の中から生まれるはずはありません。更に、池上には縁のない生まれの私がなぜあの時、酒井さんと出会えたのか、在家出身の久保田さんが、なぜ、本門寺の門を叩き、法華経と出会うことになったのかを考えると、そこには優に鳥が鳥として空を飛ぶに到るほどの、無窮の縁の働きが思われてくるのです。

(ようげん寺報 2013年10月15日発行 第4号掲載)
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