…がくれた、幸せ
初恋
文・秋津良晴 絵・中山成子
 

  初恋は「叶わない」と言いますが、私の初恋も儚く終わってしまいました。追試事件の後、少しの期間、窓際で彼女の姿を探していましたが、それも長い間のことではありませんでした。「ああ、終わったんだな」と自覚したのです。その日の彼女は、他の女子と同じ制服を着ていました。あの紺地にえんじ色の三本線、そして、えんじのスカーフ姿ではなくなっていたのです。私は「紺色にえんじ色の線やスカーフ」に都会を見ていて憧れていただけだったのかも知れないと思うようになっていました。  話は数年後のことになります。私、二十歳をとうに過ぎ、長女が

生まれていたと思います。TBSの『大岡越前』に出会いました。70~90年代『水戸黄門』『江戸を斬る』などと共に、TBSの看板ドラマです。最近、CSでデジタル化されて1部~3部までが再放送されましたが、その時は地上波の再放送だったと思います。ストーリーは「三方一両損」とか「そだての母に産みの母」、変わったところではシェークスピアの『ベニスの商人』などを題材に泣かせたり、喜ばせたりしてくれました。  さて、その『大岡越前』 第一部第4話で、後の越前の妻、「雪絵」が登場します。神社の境内でスリに遭い、逆切れしたスリにからまれてているところを越前に助けられます。雪絵は越前(この時、雪絵は浪人だと思っている)と別れて数十歩を歩いたところで、心が騒ぐのに気付きます。そして、連れの小者に素性を確かめに走らせるのでした。同じく、越前の心も騒ぎました。なぜなら、それは亡くなった許嫁・千歳(千春の姉・土田早苗)に瓜二つだったからでした。と、ドラマは青春化していきます。この時、雪絵は越前に「ひと目惚れ」だったのですね。で、私、この時の雪絵を見て、胸のときめきを覚えました。なぜなら、あの初恋の「セーラー服の君」とそっくりだったからです。名前も「宇都宮雅代」。同姓同名だから心騒ぐのを抑えきれませんでした。彼女が出てくるシーンになると、目が泳いでいたのを、かみさんは知っていたでしょうか?

(ようげん寺報 2013年10月15日発行 第8巻 第4号掲載)
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