…がくれた、幸せ
憎いあいつ
文・秋津良晴 絵・中山成子
 

 「O」は「岡崎」と言います。中学校では顔を見るのも嫌な敵同士のような関係でしたが、高校に入り、同じクラスになったこともあって、急速に接近し、二人は揃って美術部に入部したのでした。
 入部して驚いた事がありました。部員がすべて女性だったのです。男子部員は居るには居るけれど、名簿上だけの部員でした。流石に一年生は全員出席しています。数日、通っていて分かったのですが、入れ替わり立ち代わりの出入りはあるのだけれど、男子の上級生で絵を描いている者はいません。、私と岡崎と上級生の3人の女性徒だけがイーゼルに向かっていました。さらに数日を経て詳しい事がわかりました。先輩の男子部員は、下校時刻近くになると現れて、女子部員としたたか会話を楽しむと、連れ立って帰って行くのです。岡崎がまなじりを上げて、

「こんなもん美術部じゃない」
と言いました。居残っている他の上級生は聞いて聞かぬふりを装っていました。
「胸くそ悪い」
と、岡崎は言い、荷物をまとめ始めました。この頃になると岡崎は私の事を「あんちゃん」と呼ぶようになっていました。産まれたのが数ヶ月早かったのが表向きの理由でしたが、彼の中には「家のあんちゃん」になぞらえて、「学校のあんちゃん」としたかったようです。家のあんちゃんは彼にとって神様だったのですから、私に対する彼なりの敬意が込められていて光栄なことだったのです。
「あんちゃん、どーする?」
と岡崎は尋ねました。私は、部を辞めるかどうかを聞かれたのだと思って、
「やるしかなかろーもん」
と答えると、岡崎はしばらく考えると、
「ほなら、やろう」
と、意を決したように言うのでした。岡崎が「どーする」と聞いたのは部を辞めると言う意味ではない事はすぐに分かりました。新学期早々、美術部で大変な事が起ころうとしていました。

(ようげん寺報 2015年4月15日発行 第10巻 第2号掲載)
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