…がくれた、幸せ
憎いあいつ
文・秋津良晴 絵・中山成子
 

 第一印象が「大嫌い」でも、時が過ぎると仲良しになっているということは度々あります。その時、Oが私の人生を左右する親友になるとは思ってもいませんでした。美術部に誘った時、彼はすんなりと同意してはくれませんでした。よくよく聞くと、Oは「あんちゃんに」と言います。お兄さんに相談しないと決められないと言うのです。Oが言うには、お兄さんは秀才で、絵もOよりはずっとうまい。Oにとっての「あんちゃん」は神様だったのです。ボクも、それに似た思いを持っていました。ボクの場合は姉たちです。決して秀才とかではないけれど、ボクのすべてを支配して離さない、そんな関係だったのです。つまり、ボクは「シスターズコンプッレックス」と言うものでした。

と、同じように考えるならOは「ブラザーコンプレックス」というものでしょうか。ともかく、些細なことまで「あんちゃん」に聞いてみなければと言うのです。
 Oと付き合うのは厄介だなあと思い、一人で美術部に入ろうかとも思いました。一応、そう決めて、さらにもう一度誘ってみたのです。放課後、Oは居残って英語の復習をしていました。とにかく、彼はいつでも英単語を筆記で記憶しているのです。自慢の萬年筆はお兄さんからのプレゼントの、ノック式のものでした。その時も、彼は、カチカチとノックしながら記憶していました。
ボクは脇に立ち、「どう、決めた?」と美術部へ入る決断をしたかどうか尋ねました。が、彼の返事は煮え切らないものでした。ボクはもう誘う気も無くしていたので、言いたいことを言いました。「どうして自分で決められないのか」とか、「だらしない」とか並べ立てました。Oは黙って聞いていました。反論が無い分、ボクに苛立があり、「あんちゃんは、キミより先に死ぬんだろ」と言いました。そして、生き残ったキミはキミの人生を誰に決めてもらって生きるんだ? と言ってしまったのです。その時、Oは萬年筆をカチッと言わせて、英単語の筆記練習帳を閉じました。そして、「行こう」と言い、美術部室へ向かったのです。

(ようげん寺報 2015年2月15日発行 第10巻 第1号掲載)
イラスト
お問い合わせ