


デザイナーとして駆け出しの頃、横尾忠則さんと仕事をしたことがありました。新雑誌の創刊でした。彼がディレクターでボクは そのスタッフでした。雑誌の創刊なんて初めてでしたが、上に人が居てくれる。それもあの有名な…。と言うわけで、ボクは原価計算やら広告やらで忙しくし、雑誌の制作はどちらかというと他人任せの状態でした。しかし、任せていたのですが上も下も指示待ちで動いてくれません。結局、雑誌の制作もボクの仕事になり、作業に忙殺される事になったのです。毎日、いくつかの締め切りがあり、心臓はバクバク言っていました。そして、三ヶ月の時を経て、雑誌は創刊されました。安堵と感謝の気持ちを告げようと、横尾さんのところへ挨拶に行くと、彼は渋い顔でボクを迎えたのでした。約1時間ほど説教されました。雑誌の仕上がりが汚いと言う評価に対して、ボクが「時間がなかった」と言い訳をしたからでした。物づくりには、確かに、時間が必要かと思われます。明日になればいいアイディアが出るかもしれない、出て欲しいという気持ちが決断を先延ばしにさせます。この道、五十数年を経て、省みると、最初に思いついたアイディアに落ち着いている方が多い。俗に、「〜の考え、休むに似たり」でした。先延ばしにした時間は倍ほどはあったのではないでしょうか。決断が早ければ、もっと夢は叶ったのかもしれません。
(ようげん寺報 2018年6月15日発行 第13巻 第3号掲載)
